クサ男

帰り道の地下鉄。
時間のせいか、結構混んでいた。
見たところ空席はなく、仕方なく奥の方に佇む。
入った反対側のドアの所だ。
ふと周囲を見渡すと、私が立っている場所から、座席を挟んだドアの場所に
ブサイクな学生が立っている。
コートの襟口からガクランが覗いている。
中学生？
それにしちゃ老けている。
私は勝手に高校生と決め付けた。
それにしても醜い。
可哀想なほどに。
出川哲郎の顔をニキビだらけにして、眼鏡を掛けさせて神経質っぽく
したような奴だ。
きっと学校でも疎まれているに違いない。
私は彼をクサ男と呼ぶことにした。
直接臭いが届く距離ではないが、多分きっと臭いだろう。
不潔そうな臭いがするはずだ。
クサ男はいいきながって（津軽弁、調子こいでの意）ＰＳＰなんぞしている。
もったいない代物だ。
貴様はワンダースワンでもやっておけ。
奴を見て１０秒ぐらいでこれぐらいのことをバーッと感じた。
どうでもいい。どうせこいつとは未来永劫他人同士だ。
私の乗った駅から３つ目の駅で、シルバーシートだけがガランとした。
一応私は常識人なのでそこがどんなに空いていても座りはしない。
しかしあろうことか奴は違った。
クサ男はツカツカと歩いてくるなり、ドッカとそこに腰を下ろしたのである。
なんというモラル・ハザード。
私は憤死しそうになった。
しかも私が立っている場所がシルバーシート付近だった為、
予想外に奴の接近を許してしまった。
なんということだ。
想像はしていたが、まさかこれほどとは・・・。
そうである。
クサ男は果てしなく臭かった。
汗と腋臭と不潔さが混じったような刺激臭。
ご存知かもしれないが、私はかなり鼻が利く。
ツーンとした臭いが私の鼻腔を襲う。
最低だ。
醜い、臭い、モラルがない、の三重苦か。
キュリー夫人だってそんなに苦しんではいない。
結局、奴が降りるまで、４駅分私の苦しみは続いた。
クサ男が降りる時、ちょっと目が合った。
私はその時、クサ男がニヤっと笑ったような気がした。
奴はこれからもあの三重苦を背負って生きていくのだろう。
そう思うと、彼のご両親の心労の方がよっぽど苦しいだろうと
憤りをとおり越して不憫にすら感じられるのであった・・・。