夜の不定期連続ドラマ　「姫反」　１

第一夜　「出会い」
なんとなく決めていた。
大学に入っても弓道を続けよう。
全然強くはなかったけど、好きだったから。
見学に行って、すぐ入部を決めたと思う。
確か、初めての練習は土曜日だった。
朝から練習は始まる。
新入りの初仕事は安土の整備だ。
こんなの高校の時もやっている。
なんて事はない。
女子は道場の掃除だから、安土の方には男子だけ。
みんな初顔合わせだから、探りあいだ。
みんなでやるって言っても、みんなで一斉に上げるほど板がない。
交代交代にやってると、待ってるほうは雑談なんかしだす。
・・・不意に声を掛けられた。
「“サンクス”って経験者？」
金髪のちょっと弓道やるには似つかわしくない奴だった。
俺は覚えている。
見学の時、俺の右斜め前に座ってた奴だ。
「“サンクス”じゃないよ。“サンク・マム”だよ。」
俺は内心さっき自己紹介しただろ、と思いつつも、
入部初日で溝を作りたくない一心で、気にしない様子を前面に押し出して
さわやかに答えた。
「ワリぃ、“サンク・マム”ね。」
「高校三年間やってたよ。全然弱いけど。“エリカ”もやってたんでしょ？」
俺はちゃんと名前を覚えてた。
“黒沢尻北エリカ”
それがこの金髪の名前だった。
「あぁ、主将やってたよ。」
そうか、主将やってたんだ。
だったらそれなりに強いってことか。
俺は、経験者だとカマをかけて発言したんだが、軽くスルーする“エリカ”に
よって会話のつかみを持ってかれた。
「そうなんだ、そしたら結構強いっしょ？」
「まぁな。落張ってたしな。」
否定しないな。
やっぱりある程度実力はあると見た。
当時俺はたいした実力もなかったが、高校では一応スタメンだったので、
大学でも補欠にはなりたくないと思っていた。
だから他の奴等がどれぐらいのもんか、今のうちから把握しておきたいと
さりげなくリサーチするつもりでいた。
「８本撃ってなんぼ中る？」
「６か７じゃね？そっちは？」
「そうだね、俺も５、６本だね。」
・・・嘘をついてしまった。
確かにそれぐらい中らないこともないが、俺は調子の波が激しい。
おまけに早気だったから、中らないときは情けないほど中らない。
「そっかー、そしたら他の経験者もどんぐらいか聞かないとな。」
「そだね。」
“エリカ”も俺の実力を探っていたらしい。
考えるところは皆同じ、といったところか。
「まぁ、ひとつヨロシク。」
笑顔を見せる“エリカ”。
「よろしくー。」
俺も笑顔で応える。
金髪でチャラい奴かと思ったけど、結構いい奴そうじゃん。
・・・よく小説なんかだと、後の親友も出会いは最悪だったりする。
お互い敵同士だった、なんてことも。
しかし現実はこんなもん。
俺等にドラマチックな出会いは用意されてはいなかった。
でも、いいんじゃないか。
ドラマチックな出会いじゃなくても、ステキな弓道ライフを送れたなら・・・。
「にしても弘前は春だってのにさみぃな。」
まだ風が冷たい４月。
その後歴代最強の主将になる“エリカ”に、俺は出会った。
続きます。