夜の不定期連続ドラマ　「姫反」　２

第二夜　「男女の友情」
ある日の飲み会で、女の子の後輩に、
「サンク・マム先輩と“サムエル”先輩だったら、男女の友情が
　実現できそうですよね。」
と言われた。
俺は２秒位の間にいろいろなことに思いを巡らして、
「・・・いやぁ、どうかな。無理じゃない？」
と答えた。
「そうですか？すごく仲いい様に見えますけど・・・。」
「・・・仲はいいよ。ただ、男女の友情ってなるとどうかな。
　仮に俺が真の女友達と思ってても、あっちもそうだとは
　限んないじゃん？」
俺は０．５秒で言い訳を考えて言った。
確かに“サムエル”はそういう可能性を感じさせるような娘だった。
栗色の髪。
白くスラリとした脚。
それでいて豊満な体つき。
機知に富んだ話振り。
文才を感じさせる部内誌。
それでいて時に発する切れ味鋭い毒舌ぶり。
性格も極めて社交的で、明朗快活。
モラルもあって、空気も読める。
それでいて下ネタもどんとこい。
そして特にあの特徴的な唇。
ペンギンのくちばしのようにやさしく尖った上唇。
自他共に認める彼女のチャームポイント。
なんら問題はない。
しかし俺は彼女と男女の友情は実現できないと思っている。
それは何故か。
俺等はお互いに自己顕示欲が強い。
例えばカラオケ。
“サムエル”曰く、
「所詮自己満足だよ。」
同感だ。
歌いたい歌を歌う。
流行や、他人が知ってる知らないを超えて、自分が好きな歌を歌う。
時に異性の歌も歌う。
俺も同じだ。
他人の思惑を気にせず歌える強さが、俺等にはあった。
だけど適度に気を遣えるから、嫌われたりする類のものじゃない。
特に“サムエル”は人当たりがいい。
俺は愛情を込めて、「口当たりのいい女」と呼んでいた。
だから彼女は仲間内や、会話の中で、中心に居れる人物だった。
問題はそこにある。
彼女はある意味で「もっとも敵に廻したくない人物」だった。
うわさ話なんかで女性に男性は絶対に敵わない。
どんなに仲がよくったって、不満の一つや二つはあるもの。
俺は陰で“サムエル”にどんな風に言われるかが怖くて仕方がなかった。
いや、実際現実にはなんやかんや言われているに違いない。
だから、これ以上傷口を広げることはどうしても避けたかった。
出来るだけ嫌われたくなかった。
他人には言えないことも、意外と“サムエル”には話してると思う。
だけど、墓場まで持って行きたい事という、最後の砦だけは崩さなかった。
友情ってのは、そこら辺を共有できるか否か、ここに係ってると俺は思う。
もっとも、“サムエル”はそんなこと望んではいなかっただろうケド。
結局、こっちが勝手に引いた線から、踏み出したくない。
ただそれだけのことだった。
「ちょっと“サムエル”さん。ブラの肩紐が見えてますよ。」
「・・・はしたなくってすいません。」
そそくさと左の肩口を直す“サムエル”。
俺はセクハラじゃないと思ってたけど、ホントはマズかったんだろうか？
俺が一歩線を踏み越えれば、男女の友情が築けたんだろうか？
一回だけ二人で飯食いに行ったけど、あれは友情ってことで
受け取ってよかったんだろうか？
嫌わないで欲しい。
むしろ好いていて欲しい。
続きます。