夜の不定期連続ドラマ 「姫反」 3
第三夜 「与えられたモノ」
「どうする?」
「ハイ、入部します。よろしくお願いします。」
先輩の問いかけにそう答える“ウォーズマン”。
はやっ!
即決?
正直驚いた。
そんなアグレッシヴな奴だったの?
もともと“ウォーズマン”とは学部の合宿で同じ部屋になって友達になった。
基礎ゼミも同じ先生だったから、部活以外では一緒にいることが多かった。
開きコマのとき、一緒に学食でたいやき食いながら聞いてみた。
「もう部活決めた?」
「いや、まだ。」
「見学行ってないの?」
「うん。もしかしたらなんもやんないかも。」
「マジ?じゃあさ、弓道部見学だけでも来ない?
合わなさそうなら全然いいからさ。」
「じゃあ、行ってみようかな。」
俺はてっきり、
「ちょっと考えます。」
とか言って、少なくとも今日決めることはないだろう、と読んでいた。
言っちゃ悪いが、“ウォーズマン”にそんなに決断力があるとは思ってなかった。
だから入部すると聞いて本当に驚いた。
もしかして、気を遣わせたんじゃなかろうか。
“ウォーズマン”は秋田出身の、純朴を絵に描いたような男だった。
感情の起伏が少なく、いつもアルカイックスマイルを浮かべている。
専ら洋楽を好んで聴き、ギターの練習に励んでいた。
そういえば、タバコはエリカと“ウォーズマン”に教わった。
一応真面目ちゃんで通してきた俺は、本当に大学に入るまでタバコは吸った
事がなかった。
しかし“ウォーズマン”は意外にも高校時代から喫煙者だった。
偉そうに聞こえるかも知れないが、俺は“ウォーズマン”のやや内向的な
性格を考慮して、いろんな面で彼をリードしたように思う。
一緒のバイトに誘ったり、弓道初心者だった彼に指導もした。
会話でも、決して話し役ではない彼を困らせまいと、いつも話題は俺が
振るようにしていた。
部活に誘ったこともあったから、なんと言うか、俺が「与える側」なんだと
自惚れていた。
それが“ウォーズマン”にとって楽なことなんだろうと決め付けていた。
でも振り返ってみれば、より多くのモノを「与えられた」のは俺のほう
だったのかも知れない。
洋楽も、タバコも、三国無双も。
彼がいたから銭湯に行ったりもしたし、また、彼がいたからバイト先で
売り物の燻製卵を二人で隠れて食えた。
みんな卒業旅行で行った函館の朝日も、結局二人で見た。
屋上の露天風呂に浸かりながら、
「小学生の時って、寒いとチンコが縮んで、ドリルみたくなったでしょ?」
「うーん、ドリルって(笑)」
「そう、ドリルチンコ!」
朝いちから、チンコの話しながら日の出を待った。
あるとき、試合メンバーの最後の一人を巡って、先輩から
“ウォーズマン”と一騎打ちを強いられた。
俺はその決定方法に文句を言った。
主将が練習の結果を見て決めるように、食って掛かった。
“ウォーズマン”は黙っていた。
結局二人で4本づつ撃ちあって、俺が勝った。
辛かった。
決め方じゃなく、“ウォーズマン”と一騎打ちをするのが嫌だった。
終わったあと、“ウォーズマン”が
「俺の代わりに頑張って。」
と言った。
俺は“ウォーズマン”を抱きしめずにはいられなかった。
彼を弓道部に誘ったことを後悔したことはない。
彼が弓道部に入ると決めたその日以外は。
続きます。
2008/01/21 | 創作
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