夜の不定期連続ドラマ　「姫反」　４

第四夜　「プレゼント」
高校三年のとき、“八重歯”は青森県で三番目に弓道の強い女子高生になった。
俺は、素直に
「おめでとう。」
が言えなかった。
詳しくは覚えてないが、同じ大会で俺は散々な結果だった。
きっと“八重歯”は誰より、俺からの祝福の言葉を待っていたはずなのに。
高校に入って、４ヶ月。
８月８日。
夏合宿の夜に告白された。
今までずっと彼女がいない俺に、まさか告白する女がいるなんて。
何度も聴いた。
一体俺のどこが好きなのか？
「やさしいところ。」
練習中に、弦で右頬を強かに打った“八重歯”に、何の気なしに、
「大丈夫？」
と声を掛けた。
それが良かったらしい。
もう人生の３分の１を彼女と過ごしたわけだが、俺は彼女の何を
知っているのだろう。
彼女は俺の殆どを知っている。
三国志で一番好きな人物は誰か？
一番好きな食い物は何か？
どんな性癖をしているのか？
俺はいつも、自分の好きなモノを彼女に共有することを強いてきた。
翻って俺はどれだけ知ってやれているんだろう。
どれだけ好いているんだろう。
彼女に求められているものを、どれだけ与えられるんだろう。
携帯でＦＦ２をやったとき、“八重歯”の名前を女のキャラクターに
つけた。
一番最初にケアルをかけるのはやっぱり“八重歯”。
結局“八重歯”にレイズをかけることはなかった。
誕生日にはホットケーキを焼いて食わせた事があった。
“八重歯”からのリクエストがホットケーキだった。
俺が強火で焼いた少しコゲのあるホットケーキを、残さず食べてくれた。
この８年、もっといろんなモノをあげたはずだし、
もっといろんなことがあったはず。
でも本当に欲しかったモノをあげられてない事は、どうやったって消せない
事実。
あの時俺は子供だった。
今だって、まだまだケツが青いが、高校三年のときは今よりずっと
自分のことでいっぱいいっぱいだった。
でも俺も成人した。
ある程度大人に成れてきた。
だけど後もう少しだけ待って欲しい。
もう少し、蒙古斑が無くなるまで待って欲しい。
そうすれば何年後かわからないけど、８月８日。
今度は素直な気持ちで。
きっと君が一番欲しい言葉を贈ってあげられると思うから。
続きます。