夜の不定期連続ドラマ　「姫反」　５

第五夜　「二手、三手先の男」
俺と八重歯、そして“タイ人コック”の３人は、同じ高校出身だった。
しかも“タイ人コック”はその高校にトップの成績で入学してきた。
高校の入学式、新入生代表として壇上で挨拶したのが“タイ人コック”。
その人であった。
その後、弓道部に入部してすぐ気付いた。
間違いない、あの挨拶した奴だ、と。
俺等が二年生になり、“タイ人コック”は部長（主将）になった。
まるでやる人がいないからやらされた、学級委員長みたいだった。
大学に入り、彼は寮生活をしていた。
寮の仕組みがよくわからんが、またもや彼は寮で一番偉い人物になったらしい。
忙しい寮生活の中、頑張って部活に出ていた彼は、
代持ちとなると指導主事長となった。
なんなんだろう？
断れない性格なのか？
それともそういう星の下に生まれたのか？
いつもめんどくさい役回りをしている気がする。
俺が見る限り、“タイ人コック”は将軍向きではない。
むしろ俺と同じように参謀タイプだ。
王佐の才と言うかな。
後方支援の方が得意のように思える。
かといって俺のように積極的献策はしない。
議論をずっと黙って聴いていて、ここぞというときに、
鮮やかな戦略を披露する。
そういう男であった。
俺は他の大学の同輩より、長い時間を彼とともにしてきたが、
それほど奴の多くを知っているわけではない。
だからずっと彼の役回りは、すべて彼の人柄に起因する類のものと
考えてきた。
しかし実際はすべて奴の戦略によるものなのかもしれない。
もし俺が“タイ人コック”を完全に自由に配役することが
出来たとして、実際に彼が担当した役どころと異なるだろうか？
つまり彼は自ずから選択して、あの役回りをしていたのではないか。
それは、全ては己を知っているからこその芸当。
流石は主席で入学してきたことはある。
自分の最も配されるべき場所を理解していた男。
つまりそれは皆の配されるべき場所も知っているということ。
俺は密かにその才を羨んでいた。
中国古典にずっぽしハマっていたせいか、俺はそういう眼鏡で人を観る。
学力、外見、運動神経。
この現代社会で重宝されるものは、多分こっちの方だろう。
しかし俺の価値観ではそうじゃない。
一般常識的物差では測れない、そういう才能を俺は愛してしまう。
俺がいろんなことで毒づく度に、
「だってさぁ、しかたないじゃん。」
ってよく言ってた。
それは本心からなのか。
それとも思惑通りですよ、ってことなのか。
世が世なら、最も警戒しなければならないのは、こういう奴なんだ。
いつも飄々として、手の内を明かさず、最善の手を打ってくる。
策は他人の知らないところで進行しているものだ。
この俺ですら、本当は奴の術中にあったのかもしれない。
高校も、大学も。
何の為に？
それこそ円滑な部活運営の為には、適材適所が求められる。
奴も俺と同じ眼鏡をかけていたのかも知れない。
高校の卒業式、挨拶しなかったのはどうしてなんだい？
ホントに成績が下がったから？
それとも・・・
続きます。