夜の不定期連続ドラマ　「姫反」　７

第七夜　「萎えた心にバイキルト」
まさにエース。
サムエルは女子主将として、文武ともに強かったが、
“アラレちゃん”は一選手として強かった。
三国志で言うと、呂布だ。
でも外見はオセロ松嶋にちょっと似ている。
いや、中身もちょっと似ていた。
入部したての頃は、そんな強かったわけじゃない。
俺の印象では、ある時急に強くなった感じだ。
俺は正直あんまり面白くなかった。
俺はめちゃくちゃ自主練していた。
撃っては矢取りし、矢を拭いてはまた的前に立った。
まさに質より量といった感じの練習方法だった。
だけど的中率は人生トータルで５０％だった。
しかし“アラレちゃん”は違う。
「闇雲に何本も撃つより、キチッと２０本撃ったほうがいい。」
そしてしっかり結果を出していた。
有言実行というか、結果があって言葉に重みがある。
誰の目にも明らかなことだった。
彼女は効率的で、
俺は非効率的だったと言うことだ。
そんな俺でも、“アラレちゃん”とまぁまぁ戦えるレベルの時期があった。
ＯＢと年に一度試合をする機会がある。
俺は“アラレちゃん”と８射６中で同じスコアだった。
俺が“アラレちゃん”に肉薄したのは、これが最初で最後だった。
“アラレちゃん”はＯＢに激賞されていた。
俺はメタクソに全否定されていた。
この日、俺は何か急に悟った。
“アラレちゃん”に対する、嫉妬にも似た感情が消えていた。
自慰行為の後の、急に襲われる虚無感に似ていなくもなかった。
そもそも、“アラレちゃん”に密かに対抗意識を持つのが間違っていた。
どうせ敵わない、っていうんじゃなく、
仕事とあたし、どっちが大事？、みたいな、別次元の比較だったということだ。
自分が思った考えを貫こう。
自分が正しいと思ったことをしよう。
喩え戦力にならなくても、俺にしか出来ないことがあるはずだ。
そんで、俺の練習方法も、まだ完成してないだけで、いつか結果が出るはずだ。
俺はどんな皮肉や、批判にも全く負ける気がしない感じになった。
“論破してやる状態”になった。
こんなに俺に変化を与えた張本人のくせに、彼女は全くどこ吹く風だ。
天然なのか、おバカさんなのか。
いや、紙一重で天才の方なのか。
いつも変わらない感じが、非常に愛らしい。
彼女は間違いなく、弘大弓道部女子の強さの礎を築いた。
文のサムエル、武の“アラレちゃん”
俺は他のどの代持ちにも、自信を持って言える。
うちの代持ちが最強だと。
この娘等が誇りだぞと。
めっちゃスゲェんだぞと。
虎の威を借る狐だと？
なんとでも言ってくれ。
俺は“論破してやる状態”なんだ。
バイキルトがかかっとんのんじゃ！
最強だと思ってる奴等が最強なんだ！
２１キロで１００本引いてみろ、コラ！