夜の不定期連続ドラマ 「姫反」 8
第八夜 「共感」
俺は“重賞”ほど、整った顔の男を知らない。
ジャニーズにいてもいい位だ。
ただ所謂イケメンという感じではない。
どこか陰のあるような、なんか大きなトラウマでもあるんじゃないか、
というような雰囲気を持っている。
実際、どちらかというと寡黙な感じで、
おしゃべりな印象は全くない。
それ故にミステリアスな部分もある。
いつからか、俺とエリカ、そして“重賞”の三人は、連れ立って
頻繁にボウリングに出かけるようになった。
多分、俺が夏合宿で“重賞”と同じ班になり、ボウリングの
話題で盛り上がったからだと思う。
彼はかなりボウリングが強かった。
華奢な体で、14ポンドの球を軽々と投げる。
球は音もなくレーンを転がり、回転しながらピンをなぎ倒していく。
ストライクがこれほど画になる男もそうそう居まい。
そして弘大弓道部ボウリングの会が発足した。
俺も“重賞”も同じ病を抱えていた。
過敏性腸症候群。
軟便・下痢と便秘を繰り返す。
原因はストレスと診断された。
自分で言うのもなんだが、繊細な心の持ち主、ということなんだろう。
それは彼も同じはず。
しかし彼と俺とは全く対極な存在だったように思う。
誤解があってはいけないが、
俺は熱血。
彼はクール。
そんなイメージで捉えて欲しい。
俺が過敏性腸症候群になったのは、多分気にしぃだったからだ。
些細な事に深く傷ついたり、
どうでもいいことを考えすぎたり。
『細かい』
『神経質』
よく言われる。
出来るだけ明るく振舞うことを心がけている。
自らの疾患をネタにしている。
そうすることで自分を保っている。
彼はどうだったんだろう?
どんな理由であの病に罹ってしまったのだろうか?
神経質だったり、細かいような雰囲気はなかったように思う。
むしろ結構フリーダムな感じだった。
だから原因も俺とは対極にあったのかも知れない。
「ちょっと今日寒くない?」
「そうかな、ちょうどいいと思うけど?」
俺はTシャツ1枚で投げていた。
彼は長袖を3枚着ていた。
ボーリング場でS極とN極が交じあっていた。
チンチクリンの俺が、イケメンにシンパシーを感じていた。
おこがましいと言われるかも知れないが、
俺と彼とは、本当は似ている部分が沢山あったのかも知れない。
俺はストライクを出した後の彼と、ハイタッチするのが好きだった。
それが俗に言う、『青春』とかいう、爽やかなものだと
勝手に思っていた。
続きます。
2008/01/26 | 創作
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