夜の不定期連続ドラマ　「姫反」　９

第九夜　「スーパーサイヤ人」
俺とエリカが出会ったあの日、真っ先に安土を上げる男がいた。
「よーし、“股引”、昨日教えたみたくやってみろ。」
「は、はい。」
ぎこちない様子で安土を整備する“股引”。
あれ、今日が初練習の日なのに、なんでもういろいろ教わってんの？
もしかしてこの人は２年生で、中途入部なの？
「いや、お前等とおなじ１年だよ。
　お前等より早く見学に来て、すぐ入部したんだ。」
なんと積極的。
俺なんかわざわざ見学会の日まで待っていたというのに・・・。
聴けば彼は弘前一の進学高出身で、現役で医学部医学科に合格した
高性能な脳みそを搭載しているらしい。
エリートというのはこういう人なのか・・・。
俺は“股引”の皺だらけの脳みそを想像していた。
“股引”はやたら腰が低い。
後輩にすら敬語を使う有様だ。
高校時代にはなんとゲートボール部に所属し、全国で３位だかになったらしい。
なんやねん？
その経歴。
趣味は山登り。
「森の空気はいいんだよ～。」
部活を休んで山登るってどうゆうことやねん！
将来は小児科医になって、小さい子を救いたい。
高尚な夢を抱く。
１００人中１００人が「いい人」と表現するに違いない。
ある日、礼拝を待つ間、俺は何の気無しに“股引”のわき腹を弄った。
「アヒャァ！？」
悶える身体から、奇声が発せられた。
面白くなった俺は再度、その右のわき腹を強く揉みしだいた。
「ハヒィ！、ちょっと～、サンク・マム、やめてくれ～！」
騒ぎ出した“股引”に、駆けつけたエリカ、腰履きがさらに攻撃を
加えていく。
「ギャハァ！やめてくれ～。」
この日、“股引”はナチュラル・リアクション・マシーンであることが判明した。
またある日、ストーブの前で雑談していると、急に“股引”のスイッチが
オンになった。
「北斗の拳で、敵がやられる時、『ヒデブッ』って言うでしょう？
　あれは顔面の筋肉が痙攣して、実際に発してる声がうまく
　発音できないからだと思うんだよね～。」
「そうかぁ。じゃあ『アベシッ』も？」
関心した様子のウォーズマンが聞く。
「そう、だから『ヒデブッ』も『アベシッ』も、実際は普通に
　『ギャー』とか言ってるんだと思う。」
真顔で答える“股引”。
この日、少年漫画の解釈に、新境地が開拓された。
脳みそが発達しすぎると、凡人には到達できない境地に達するものらしい。
過去の偉人たちにも、普通では考えられない言動、発想があったことは
歴史が証明している。
あのドクター中松もフロッピーディスクを開発する一方、
数々の珍妙な発明品を世に送り出している。
“股引”が「いい人」で本当に良かった。
絶対に、悪い事には使わないだろう。
なんたってピュアハートすぎるから。
その頭脳は是非子供達の為に使ってもらいたい。
俺は予言する。
多近い将来、この日本のどこかに、
「ＣＨＡＲＡ～♪へっちゃら～♪」
と鼻歌を歌いながら診療する、ステキな小児科医が生まれるであろう。
続きます。