夜の不定期連続ドラマ 「姫反」 10

第十夜 「ブラックジャックによろしく。」
「流石、亀の甲より歳の功っ!」
「まじやめてくれよ~。ホント気にしてるんだからさ~。」
俺はよく“オペ”の浪人をネタに茶化していた。
本当に本当に気にしているのかも知れなかったが、俺はそんなこと
どうでも良かった。
“オペ”はイジられると、いい笑顔をする奴だった。
“オペ”は股引と同じく医学部医学科。
一浪したとはいえ、あたまよしおだった。
おとなしい性格で、大学4年間ではっちゃけた彼を遂に見ることはなかった。
初心者で入ってきた彼は、よくわからない会の持ち主であった。
しかし押しがしっかりしているせいか、結構中っていた。
もちろん練習熱心だったからだろう。
実習やテストで忙しいはずだが、自主練出現率は高いほうだと思う。
女っけがなく、同じ医学部の股引と仲がよかったため、
ホモ説も流れる始末。
いや、流したのは俺なんだけど。
しかし真相は藪の中。
瓢箪から駒じゃないことを祈る。
そんな“オペ”だが、俺は一目置いていた。
「亀の甲より歳の功」のくだりは、しゃれでもなんでもない。
本当にそう思っていた。
年齢が一個違うだけでやっぱり大人。
どんな議題だったか忘れたが、代持ちのミーティング中。
ずっと黙って聴いていた“オペ”が不意に口を開いた。
内容を全く覚えていないのが、本当に申し訳ないんだが、
俺は“オペ”のまさしく的を射た発言に目からウロコが落ちた。
7片ぐらい落ちた。
多分その衝撃のせいで、発言の内容を忘れたんだと思う。
なんという皮肉。
やっぱり浪人てのは、その一年という年月以上に、
大きく人を育んでくれる時間なんだと思う。
憤りもあるだろう。
不安、恐れもあるだろう。
挫折感や焦燥感は言うまでもない。
まして“オペ”の場合は医学部。
俺はのほほんと人文科に入ったから解らんけど、きっと死ぬほど難しいに
違いなかった。
確かに浪人を許してくれる環境ってのが一番必要な条件なのかも
知れないけど、本人の覚悟がないと貫けるものではないしね。
そういう壁を乗り越えた者だけが出来る発言だったと俺は思った。
言い過ぎか?
いや、俺はそんな壁を越えたことはない。
「兄貴」という印象は、誰に聞いても引き出せないと思うけど、
その銀縁の眼鏡に潜む瞳には、確かに厳しい戦いを勝ち抜いた
戦士の強さが灯っていた。
いやある意味、ホントに「兄貴」ではあるんだけども。
続きます。

2008/01/28 | 創作

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