夜の不定期連続ドラマ　「姫反」　１３

第十三夜　「五人組」
毛沢東、江青、張春橋、王洪文、姚文元をよく「五人組」と言いますね。
一般には「四人組」の方をよく耳にしますが、文化大革命の首謀者を
指すには、「五人組」の方がより正確だと俺は思います。
さて、ウォーズマンの家に集い、酒を飲んで語らう仲間達を、俺は「五人組」
と名づけました。
しかし、他の四人のメンバーは、その「五人組」の由来を知って
いたのでしょうか？
この俺の、エスプリの利いたネーミングセンスを、彼らは理解して
くれていたんでしょうか？
なんとなくウォーズマンの家に集まり、酒を飲んで、
下らない話や三国無双をしたのが始まりだったと思います。
エリカが月例射会かなんかのついでに、コカ・コーラ専用と思われる、
ビールジョッキ的なモノを買いました。
ウォーズマン、サムエル、アラレちゃんも買ったとの事。
完全に事後報告だった為、俺は完全に乗り遅れました。
所謂はんつけです。
ブースカ文句を言って、エリカにもう一個買いに行かせました。
これで五人はお揃いのジョッキにガバガバビールを入れて飲みました。
俺らの文化大革命が始まりました。
他の同輩達には相談なく、勝手に役職について語り合いました。
男子主将と副将はもう既に決定していました。
俺は某先輩主務に
「お前が主務になれ！」
と誘われた事がありましたが、心の中では既に決まっていたのです。
そんなこんなでウォーズマンが主務に内定しました。
「みんなが任せるって言ってくれるなら・・・。」
ウォーズマンはおずおずとそんなことを言ったと思います。
それから、俺はキッチンドランカーになっていろんな料理を作りました。
「アタシもなんか手伝う～♪」
とか言ってアラレちゃんが来たので、キャベツの千切りをさせました。
しかし酔っ払ったアラレちゃんは情緒不安定になって、
知らぬ間にアパートの外に行き、泣いていたようでした。
エリカが慰めに行きました。
当然です。
どうせ原因はエリカです。
全くとんだカップルでした。
俺は散乱したキャベツをボウルに入れ、お好み焼きを作りました。
帰ってきた二人に俺は、
「べろちゅーしたか？べろちゅー？」
と言いました。
エリカは怒ったように、
「してねーよ！」
と言いました。
どうやらしたようです。
俺は、
『乳を鷲づかみにしたか？』
という質問を必至に喉元で押さえました。
コーヒーの空き缶を灰皿にしながら、ガランとしたウォーズマンの部屋で、
俺はそんなことを思い出していた。
少し時間が経って、エリカ、サムエル、アラレちゃんが顔を見せた。
こうして五人でこの部屋に集まるのは最後になった。
不動産屋の人が、部屋のチェックに来た。
「タバコ吸うでしょう？結構壁紙が汚れてますね。」
それはウォーズマンのであり、エリカのであり、また俺のヤニであった。
俺はヤニ以外のモノも染み付いていると思っていた。
まだ雪の残る三月。
三人に見送られて俺とウォーズマンは駐車場へと向かった。
駅までウォーズマンを送っていった。
ちょうど紀伊国屋のあたりで、アジカンについて語った。
『リライト』が俺らの思い出も消してしまいそうだった。
今デカイジョッキは食器棚で眠っている。
また五人が集まって乾杯する、その時を夢見て。
続きます。