夜の不定期連続ドラマ 「姫反」 21
第二十一夜 「みんなの為だったんだから許してもらいたい。」
いつものように道場に向かうと、今日はどうやら一番乗りらしく、
開拓されていなかった。
俺はブーツを濡らしながら、一歩づつ道場に近づいていった。
ジャージに着替え、タイ人コックが買ってきた長靴を履くと気合が入った。
掬う部分にヒビが入ったスコップを握ると、真っ白なフロンティアに立ち向かう。
シャッターを開けて、そこから飛び降りれば、安土までに最短距離だが、
結局は矢取りの為の道を用意しなければならないので、玄関口側から攻める。
時には踏みつけ、時には道路に不法投棄しながら道を創っていく。
「掘る」という作業は、人を無心にさせる。
しかしながら俺は、融雪機導入を真剣に考えながら堀進めた。
大量の雪に埋め立てられ、川の上も歩ける状態。
ママさんダンプでのピストン輸送に取り掛かる。
どんなに安定しているように見えても、足元には少なからず水が流れている。
そう思うと、東京タワーなんかにある、強化ガラスの床を思い出す。
絶対大丈夫のはずだが、あんまり上にはあがりたくない。
何度目の投棄のことだろう。
恐怖心はなくなり、軽快に作業していた時のこと。
「あっ・・・!」
その瞬間に景色が変わり、右足に激しい冷たさが。
冷たさというか、もう、ちょっと痛かった。
誰にも見られていないのは幸いだったが、助けてくれる人もいない。
俺は長靴が脱げないよう、右足首を慎重に動かしながら、弘前大学に突如
あらわれたプチクレバスから脱出した。
もう作業してはいられない。
俺は道場に戻り、グッチョリぬれた右足と靴下を乾かした。
その日の練習後、タイ人コックが、
「長靴の中が濡れていました。濡らした人は責任持って乾かすように」
とみんなに注意した。
ごめんね。
俺でした。
続きます。
2008/02/16 | 創作
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