【宮城谷昌光　重耳】すべての欲を満たそうとするな、満ちれば欠けるほかなくなる

汝とてすべての欲を満たそうとするな、満ちれば欠けるほかなくなる、とさとした。

太子・詭諸を諭す曲沃の君主・称の言。

念願であった翼を滅ぼし、嫡流と庶流で対立していた晋の統一が成った。
翼を攻めている曲沃の留守を狙った虢公が、晋の統一後、周王の使者として称に相対した。

称は虢公が滅ぼした翼の公子たちを密かに匿っていることを知っている。
王朝で紛争が起きた際には虢公や虢公が押す周の太子を推すことを条件に、
翼の遺子を追放して欲しいと迫った。

諾否をはっきりしないことが利を産むと信じている虢公ははぐらかす。
称はその意を汲んで贈賄を申し出る。
ようやく実利を掴んだ虢公は翼の遺子追放を約束した。

詭諸は同じ室で称と虢公のやり取りを聴いていた。
称の言は虢公が去った後の、称から詭諸への教えである。
称は虢公の終りが良くないことを予言したが、虢は詭諸によって滅ぼされる。

全くの無欲では何かを成す原動力も得られないが、
虢公のような小利ばかり求めても、大成はない。
己が程度を弁え、過度の欲を出さないことで、かえって人生が豊かになるに違いない。

重耳(中) (講談社文庫)