【宮城谷昌光 奇貨居くべし】比類ない個に克つには、組織しかない

比類ない個に克つには、組織しかない。大衆の力があなどれないものであることを、
わたしは知っているが、貴門に育った信陵君にはわからぬであろう。
つまり、そこだけではなく、あれやこれやで克つ


蒙驁が信陵君に克てるのかという申欠の問いに対する、呂不韋の答え。

呂不韋は、応候(范雎)の疎まれたため、軍事を握る機会を与えられなかった蒙驁に面会した。
この時蒙驁は六十になっており、半ば大軍を指揮する機会について諦めていたが、
呂不韋と会い、その胆知と才覚を感じると、いずれ国権を握る男かも知れぬと予感した。

呂不韋もまた、蒙驁に良将の素地をみた。
衒異や傲岸さは無く、属将や配下の心をつかむような人柄と、
不遇に耐えぬいた堅忍不抜を感じた。

後に丞相にのぼった呂不韋は、蒙驁を将軍に推挙し、
蒙驁もまた呂不韋の期待に応え、軍事における呂不韋の思想の具現者であった。
史実としては、結局のところ信陵君には敗れているものの、
呂不韋に推挙されて以後の軍功は素晴らしく、晩年には一年で二十邑を取るという驚異的な大功も樹てた。

呂不韋の知恵と蒙驁の軍才とが両輪となり、秦の拡大に寄与した。
良き友、良き仲間を得て、独りでは超えられぬ壁を穿ってみたいものである。

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