【宮城谷昌光 奇貨居くべし】人は、生きていることを、他人とは違う表現において証拠立てよ

人は、生きていることを、他人とは違う表現において証拠立てよ


呂不韋は人相見の大家、唐挙の代わりに伯紲に使いした。
伯紲は慈光苑という、孤児や寡婦など独りでは生きてゆけない人々を養う施設を運営していた。
唐挙は人相見で集めた相当量の金を伯紲へ贈るため、呂不韋を遣わしたのであった。

慈光苑を尋ねるものの、伯紲は外出していた。
代わりに出迎えた留守を預かる黄外、そして気高さのある老人にその金を納めた。
老人は金と一緒に届けられた唐挙からの牘(メッセージ)を読み、呂不韋を客として招待した。

老人の正体は薛公、すなわち孟嘗君であった。
食客数千人を抱える、天下の実力者である。

孟嘗君は客に舎を与えるが、その舎には三等があり、
三等が伝舎、二等が幸舎、一等が代舎と呼ばれる。
呂不韋には最も上等な代舎が宛てがわれた。
賓客であると見なされたことになる。

呂不韋とともに慈光苑へ金を届けた高睟という男が居たが、
この男は一度孟嘗君の招待を受けたものの、届け物の中身が金であることを
呂不韋が自分に知らせなかったことに腹を立て、招待を受けずに去った。
後に老人の正体が孟嘗君であり、呂不韋が一等の代舎の客になったことを知り、
自分も招待を受けていれば代舎の客になれたと悔やんだ。

呂不韋の従者である雉もまた孟嘗君の客となったが、雉は伝舎が与えられた。
しかしそれは呂不韋の従者であるから与えられたものではなく、
雉自身の人格を評価されての結果であった。
他の伝舎の客と触れ合うことでそのことを知った雉は、
たとえ高睟が招待を受けていたとしても、そのような考えの持ち主が
代舎を与えれられはしまいと考えた。

孟嘗君は客に対して、
「生きていることを、他人とは違う表現において証拠立てよ」
と考えているようであった。
故に呂不韋の従者に過ぎない雉であっても、後に恨み事を言うような高睟とは、
一個性を認められ、きちんと舎を与えらた点で異なるということである。

出る杭は打たれる。
また、今日の所謂個性というものは、時に煙たがられるものでもある。
しかし、企業活動一つにおいても、後に革新的と呼ばれる成功例は、
突出した個性によって生み出されるものも多い。

世界の全歴史において、すべての人が唯一無二の存在である。
良き先人の模倣はすれども、けっして歴史に埋もれることなく、生きた証を遺したいものである。

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