【宮城谷昌光 天空の舟】世をうるおす雨は、下から上へは、降りません


世をうるおす雨は、下から上へは、降りません。


商后による葛伯の殺害、そして葛の滅亡。
反逆の知らせを聞いた莘后は昏倒。
亡国の民の、莘邑への避難。
莘邑は混乱し、葛人への思いやりが欠けていた。

莘后を政敵と目する昆吾伯は、商后の反逆の一報と、
莘后の共謀では、という情報で莘后(有莘氏)の抹殺を決断。
新たな夏王・桀は王師を率い、莘后討伐に動いた。
(この時莘后は既に亡く、嗣君が後を継ぐ。)

商軍の来襲に備える莘邑であったが、王師による討伐を知り、
その理由を理解できぬまま、場は応戦の雰囲気となった。

莘后の妹、妺嬉は摯にすがり、莘邑が滅びぬ道を摯に問う。
王師による討伐を前に、摯は冷静だった。
ほんの一日前までは、虚言の罪で新莘后に処断されそうだったにも関わらず。
摯は莘后による葛人への思いやりが欠けていることを危惧していた。
厚く庇護すれば、あるいは莘邑の為に戦ってくれる可能性のあった葛人は、
王師が来襲すれば、門を開け、邑内へ王師を引き入れようとするであろう。

莘后による葛人への思いやりは、まさしく慈雨の如きであるべきだった。
妺嬉は下から上へ、つまり葛人が莘邑を思いやり、何がしかをしてくれまいか期待するも、
地から天へは雨は降らぬのが道理である。

現代の政治においても、その道理は変わらないだろう。
上に立つ者は、下に立つものに対し、先に何かを求めてはならない。
まずは何も求めず、与えるのみである。
それが出来ずば、下の支持を得ることは出来ない。
情けも感じられないが、現実としてはそうである。

人気取りは見透かされるが、かと言って搾取は最悪である。
まずは与えること。
さすれば与えられん。

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