【宮城谷昌光 天空の舟】その恐れが、あなたを活かすのだ

そのためには、桀を生かしておかねばならぬ。あなたの政治が荒怠すれば、ひとびとは、
ああ夏王の御代の方がよかった、というであろう。
その恐れが、あなたを活かすのだ。


葛人・顎の、商后・湯への言。

商と夏との戦いに勝敗が決した。
歴史が示すように、夏は敗れ、桀は虜となった。
桀とその妻妺嬉は流罪となった。

流罪の数日前、商の陣中を訪れる者があった。
葛人・顎である。
湯は快く迎えた。

葛は商によって滅ぼされた邑である。
葛が商に攻められる理由は葛にあり、全ては葛伯の所為ではあるが、
そうであっても顎にとっては祖国である。
祖国を滅ぼされた恨みは海より深い。

事実、顎は摯の親友でありながら、商に仕える摯と決別し、
常に商の対抗勢力に身を寄せ、商后・湯の首を狙ってきた。
顎はそれでも堂々と面会を申し出、湯はその事実を知りつつも面会に応じた。
古代人の肝の太さは尋常ではない。

顎は桀の命乞いに来たのではない、と言いつつも、
桀を殺してはならないと説いた。
兵をもって王位を奪ったものに夏の開祖・啓王もいるが、その啓王とて前の王を殺してはいない。
湯は啓王の晩年、政治が乱れたことを踏まえ、そうならないように努めると答える。
そうであるならば、やはり桀を生かしておかねばならないと顎は言い、
湯は感心して、流刑後の桀の生命を顎に委ねた。

志をもって立った革命者故に、前の御代が良い、などという評価は格別に辛いものとなるだろう。

いわば反面教師である。
他人の瑕疵は付け入る隙ではなく、寧ろ自戒の為の学びとして捉えなければなるまい。

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